奥景
積丹 北海道 神威岬 積丹ブルー 積丹岬 旅行記

鼻で息がしづらいほどの風の先に、青が二色ありました。予定をひっくり返して回った六月の積丹半島

📅 取材時期:2024年6月

尾根の上に出たところで、風が正面から当たりました。

強いのです。

強い、というより、うまく息が吸えません。

鼻から吸おうとすると、風が押し返してきます。

六月なのに、少し肌寒いくらいでした。

その風のなかで顔を上げると、細い尾根が海へ向かってどこまでも続いていました。

空が青く、足元の草が緑で、その先の海がまた青い。

しかもその海の青が、一色ではないのです。


二日目の予報を見て、予定をひっくり返しました

この旅で、いちばん正しかった判断の話から書きます。

もともと積丹(しゃこたん)は、二日目に回る予定でした。

ところが、二日目の天気が悪そうなのです。

それで前の晩に、一日目と二日目の予定をまるごと入れ替えることにしました。

結論から言うと、これが大正解でした。

国道の先、海沿いにそそり立つ黒い三角形の奇岩。空は曇り、路面はまだ濡れている

レンタカーで海沿いの国道を走っていきます。

このときはまだ空が曇っていて、路面も濡れていました。

その道の先に、黒い三角形の岩が海から突き上がっているのが見えます。

まだ何も始まっていないのに、もう景色が始まっている。

そういう道でした。

妻
人に勧めてもらってから10年くらい。やっと積丹に来れたね。

そうなのです。

十年ほど前に人から勧められて、ずっと頭の片隅に置いたままだった場所でした。

ようやく、その入口に立ったところでした。


神威岬 — 歩くたびに、景色が変わっていく

駐車場に車を停めて、歩き出します。

神威岬(かむいみさき)は、細長い尾根の上を、先端に向かって歩いていく岬です。

道はよく整備されていました。

木道が続いているところも多く、足元に気を取られずに歩けます。

そして、歩いているうちに気づきました。

景色が、どんどん変わるのです。

木の柵越しに見る、緑に覆われた神威岬の尾根と、その先へ続く海岸線

少し進むと、さっきまで見えていなかった海岸線が現れます。

もう少し進むと、尾根の反対側が開けます。

振り返ると、また違う形の景色になっています。

行きも帰りも楽しめる道でした。

同じ道を戻っているだけなのに、まったく退屈しないのです。

足元の岩も、場所によって表情が違いました。

砂っぽくてさらさらしたところがあります。

ゴロゴロした岩がむき出しになっているところがあります。

色のついた岩が並んでいるところもあります。

草地の向こうにある、横縞の層がはっきり見える灰色の岩の高まり

草地の向こうに、横縞のはっきり入った岩の高まりが見えました。

しましまが、そのまま横に走っています。

歩く速さで、地面のほうもゆっくり変わっていく感じでした。

季節も良かったのだと思います。

道の脇に、白い花、黄色い花、紫の花が咲いていました。

黄色い花は、ユリの仲間のように見えました。

名前は分かりません。

分からないまま、きれいだね、と言いながら歩いていました。

そして、海です。

高台から見下ろす入り江。手前の浅瀬は明るい青緑、沖は濃紺で、青の濃淡がくっきり分かれている

高いところから見下ろすと、入り江の青がふたつに分かれていました。

手前の浅いところは、明るい青緑です。

その少し先から、急に濃紺になります。

グラデーションというより、線が引かれているように見えました。

しかも、透明度が高いのです。

なぜこんな色になるのだろう、と話しながら歩きました。

🔍 積丹の海は、なぜあんなに青いのか
積丹の海が青く見えるのは、まず水が澄んでいるからだといわれています。

この半島には大きな川が少なく、海に流れ込む土砂がそのぶん少ないため、水の透明度が保たれやすいのだそうです。

そのうえで、浅いところと深いところで色が変わるとされています。浅瀬では海底で反射した光が戻ってくるので明るい青緑に見え、深いところでは光が水に吸収されて、残った青だけが目に届くために濃紺に見える、といわれています。

ひとつの入り江のなかで青がくっきり二色に分かれて見えたのは、そこで海底が急に深くなっているからだ、ということになりそうです。

歩いていて、知床を思い出しました。

以前に歩いた知床の道と、通じるものがあるのです。

広さの感じ、景色が次々に変わっていく感じ。

知床に並ぶか、ちょっと次か。

そのくらいの場所だと思いました。

私
これは一回来た方がいいやつ。

正直なところも書いておきます。

人が多いわりに、道が狭いのです。

すれ違うときに、どちらかが待つ場面が何度もありました。

快適さでいえば、知床のほうが上だったと思います。

それでも、来てよかったと思える場所でした。

📍 神威岬(かむいみさき)
所在地北海道積丹郡積丹町
駐車場あり(無料)
見どころ尾根づたいの遊歩道。歩くたびに変わる景色と、濃淡の分かれた海の青
注意風が非常に強い。六月でも肌寒く、上着があると安心。道は整備されているが幅は狭い

広い場所があったので、ふと降りてみました

神威岬から積丹岬へ向かう途中のことです。

道路脇に、やけに広いスペースがありました。

積丹海岸パーキングです。

とくに目的もなく、なんとなく車を停めました。

これが、思いがけず良かったのです。

海面から突き出した黒い岩礁が点々と並ぶ海岸。奥に対岸の陸地と集落が見える

海に、黒い岩が点々と突き出しています。

奥のほうには、対岸の陸地と集落が見えました。

そして振り返ると、さっきまで歩いていた神威岬が見えるのです。

自分が立っていた場所を、外から眺めている。

これが、けっこう嬉しいものでした。

足元の海をのぞくと、水が透き通っていました。

底のほうで、藻がゆらゆら揺れています。

ずっと見ていられます。

遠くに目をやると、岩の上で釣りをしているおじさんがいました。

どうやってあそこまで行ったのでしょう。

干潮のときに歩いて渡るのでしょうか。

二人でしばらく、その話をしていました。

ごつごつした岩の上に立つ2羽の海鳥。オオセグロカモメと思われる

大きな岩の上に、鳥がいました。

そのときは、白い鳥がいるな、くらいの認識でした。

ところが家に帰ってから、望遠で撮った写真を見返して気づきました。

ヒナがいるのです。

親鳥のそばに、もう一羽。

その場では気づかなかったものが、写真のなかに残っていました。

道路脇の海に立つ、細かい礫がびっしり詰まった巨大な岩塊

この一帯には、いろんな形の岩の塊がありました。

近くで見ると、細かい石がびっしり詰まっている岩もあります。

ひとつずつ形が違うので、見ていて飽きません。

🔍 なぜ、海に岩だけが立って残るのか
積丹半島の海岸線にこうした岩の塊がいくつも残っているのは、岩の硬さが場所によって違うからだとされています。

海底の火山活動に由来する硬い岩と、そうでないもろい部分とでは、波に削られる速さが違います。

もろいところが先に削られていき、硬いところが取り残される。その結果、海のなかに岩だけが立って残る、といわれています。

点々と並んでいる黒い岩は、削られずに残った側だった、ということになりそうです。

予定にはまったく入れていない場所でした。

ふと立ち寄ってみて、よかったと思います。


積丹岬 — 真っ暗なトンネルを抜けたら、黄色い岩

次に向かったのは、積丹岬です。

駐車場から、短いトンネルを歩いて抜けます。

このトンネルが、本当に真っ暗でした。

足元もよく見えないまま進んで、出口の明るさに目が慣れたところで、目に入ってきたのが黄色でした。

黄色く変色した崖の斜面と、その下に広がる深い青の海

崖の斜面が、一部だけ黄色く変わっています。

その下は、深い青の海です。

黒っぽい岩と、黄色い部分と、濃い海の色。

三つの色が同時に目に入ってきました。

これは何だろう、と二人で話しました。

鉱物のせいではないか、という話にはなったのですが、確かめてはいません。

ここでひとつ、残念な知らせがありました。

トンネルの先にある島武意(しまむい)海岸には、この日は降りられなかったのです。

降りていく道が崩れていて、通行が規制されていました。

上から眺めるだけになりました。

そのぶん、岬の上の遊歩道を歩くことにしました。

地図に「ここが一番キツい」と書かれている区間があって、そこまで歩いてみました。

緑に覆われた台地状の岬の先端と、そこから海へ落ち込む崖

緑に覆われた台地が、そのまま海に落ちています。

道は細く、両側から草が生い茂っていました。

妻
道が細いし、草すごいし、ちょっと怖いんやけど。

たしかに、先が見えにくい道でした。

それでも歩いてよかったのは、灯台を少し過ぎたあたりです。

黒い岩と、黄色く変わった部分と、深い海と、葉の緑。

その組み合わせが、いちばんきれいに見える場所でした。

もうひとつ面白かったのが、木のトンネルのような区間です。

まわりはずっと草が生い茂っているのに、そこだけ木が頭の上を覆っていました。

急に日陰に入って、空気が変わります。

短い区間なのに、印象に残りました。

正直に書くと、おもしろくはあるけれど、神威岬ほどではありませんでした。

私
神威岬にはまた行きたいけど、ここはもういいかな。

だからこそ、神威岬を先に回っておいてよかったのです。

時間的にも、天候的にも。

もし順番が逆だったら、いちばん見たかったものを取りこぼしていたかもしれません。

📍 積丹岬・島武意海岸(しまむいかいがん)
所在地北海道積丹郡積丹町
駐車場あり
見どころ真っ暗なトンネルの先の眺め、黄色く変わった崖、灯台の先の遊歩道
備考島武意海岸へ降りる道は、状況により通行止めになることがある

黄金岬 — 森の道の先で、ラッコに会いました

続いて、黄金岬(おうごんみさき)へ向かいました。

ここは、積丹岬よりも森の中を歩く感じでした。

アップダウンはありますが、道は広めです。

草をかき分ける不安がないぶん、気楽に歩けました。

高台から見下ろす入り江。断崖に囲まれた小さな港と、海に浮かぶ岩

高いところに出ると、下に小さな港が見えました。

断崖にぐるりと囲まれた入り江です。

その海に、岩が浮かんでいます。

その岩を見て、妻が言いました。

妻
あれラッコに見えへん?ラッコ岩やな。

言われてみると、たしかにラッコでした。

仰向けに浮かんでいるように見えます。

決まった名前があるわけではなさそうなので、我が家では「ラッコ岩」で通っています。

ここは、夕陽の時間だったらもっと良かったのかもしれません。

そう思いながら歩いていました。

それでも、この日の結論は変わりませんでした。

神威岬の一強です。

越えられませんでした。

📍 黄金岬(おうごんみさき)
所在地北海道積丹郡積丹町美国町
駐車場積丹町役場の駐車場を利用
見どころ森のなかの遊歩道と、高台から見下ろす入り江と港
注意アップダウンがある。道幅は広め

ローソク岩 — 灰色の海に、細い柱が一本

車で移動していると、海のほうに細い柱が立っているのが見えました。

ローソク岩です。

灰色の海に浮かぶ岩礁と、そこから細く立ち上がる岩の柱(ローソク岩)

さっきまで見てきたどの岩よりも、細いのです。

平たい岩礁の上に、柱が一本だけ伸びています。

この日は空も海も灰色でした。

そのなかに、シルエットのように立っていました。

夕陽が重なると、火のついたローソクのように見えるのだそうです。

そういう時間に来られたら、また違う印象だったと思います。


えびす岩と大黒岩 — どっちがどっち?

その日の最後に立ち寄ったのが、えびす岩と大黒岩でした。

海に、二つの岩が並んで立っています。

海に並んで立つ2つの岩。左は細く上が張り出し、右は太くて上に小さな赤い鳥居が立つ

左は細くて、上のほうが張り出しています。

右は太くて、てっぺんに小さな赤い鳥居が立っていました。

私
どっちがえびす様で、どっちが大黒様なんやろ。

二人でしばらく見比べていました。

結局、答えは出ませんでした。

それより気になったのは、細いほうの岩です。

どうしてあの太さで立っていられるのか、分かりません。

下のほうが削れていて、上が張り出しています。

そのうち倒れるのではないか、と本気で思うくらいでした。

そばに、説明の看板が立っていました。

🔍 看板に書かれていた、二つの岩の成り立ち
現地の看板によると、積丹半島の海岸線では多くの奇岩を見ることができ、このふたつは商売繁盛をもたらす七福神の「えびす様」「大黒様」に似ていることから、そう呼ばれるようになったのだそうです。

ほぼ同じ高さで並んでいることから、夫婦岩と呼ばれることもあると書かれていました。

そして成り立ちについては、安山岩の礫を含む火山円礫岩が波に洗われてできた岩体で、水中に噴き出した溶岩が急速に冷やされてできた岩を起源とする、とありました。

海の中で急に冷やされて固まった岩が、そのあと長いあいだ波に洗われて、いま二つだけ立っている。

そう思って見ると、倒れそうに見えたあの細いほうも、よく残ったものだという気がしてきます。

看板には、西側から見ると背景の烏帽子岬とあいまって、とても美しい景色が広がるとも書かれていました。

そして、振り返ったところにあった岩も面白かったのです。

白と茶色が混ざっています。

しかも白が、一色ではありません。

濃い白と、薄い白が、帯のようになっていました。

主役は海の側の二つの岩なのですが、背中側にも見るものがありました。

📍 えびす岩・大黒岩
所在地北海道積丹郡積丹町
駐車場海沿いに駐車スペースあり
見どころ並んで立つ二つの岩。現地に成り立ちの説明看板がある
備考道路沿いから見られる。振り返った側の岩肌も色が面白い

予定を変えて、本当によかった

一日で、岬を三つと、岩をいくつも見て回りました。

そのなかで、はっきり残っているのは神威岬です。

風で息がしづらかったこと。

歩くたびに景色が変わって、振り返るとまた違って見えたこと。

白と黄色と紫の花が咲いていたこと。

そして、青がふたつに分かれていた海。

このためにまた行きたい、と思える場所でした。

積丹岬も黄金岬も、行ってよかったのは確かです。

ただ、もう一度行きたいかと聞かれると、答えは神威岬になります。

ローソク岩とえびす岩・大黒岩は、車を停めて数分の寄り道でした。

それでも、あの細い岩がどうして立っていられるのかを二人で言い合った時間は、ちゃんと記憶に残っています。

そして何より、二日目の予報を見て予定をひっくり返した、あの判断です。

もし予定どおりに動いていたら、神威岬をあの風と光の下で歩くことはできませんでした。

十年ごしにようやく来られた場所で、いちばんいい一日を引き当てられた。

そう思える旅になりました。


地質情報の参照: 現地案内看板(えびす岩・大黒岩) /「〜とされている」「〜といわれている」と記した箇所は、学術的に確定した情報ではなく通説・推定を含みます。