
鴨ヶ浦の岬の先端に立ったとき、目の前に「二つの海」がありました。
外側は荒れていました。
日本海の波が岩に叩きつけ、しぶきが顔にかかります。
岩礁の内側に回り込むと——水が嘘のように静まり返り、海底まで透き通って見えました。
同じ場所なのに、20メートルも離れていないのに。
「なんでこんなに違うの?」
その答えを探しながら、能登を一日歩きました。
📅 取材時期:2023年12月
まず地図を見てほしい — 能登半島の「二面性」
能登半島には、性格がまるで違う2本の海岸線があります。
| 外浦(そとうら) | 内浦(うちうら) | |
|---|---|---|
| 向き | 北西・日本海側 | 東・七尾湾側 |
| 波 | 冬は荒波・崖地形 | 穏やか・砂浜が続く |
| 代表スポット | 白米千枚田・鴨ヶ浦・能登金剛 | 和倉温泉・九十九湾・七尾市街 |
今回歩いたのは、まず外浦——日本海の荒波をまともに受ける側です。

対して内浦は、七尾湾に抱かれた静かな港町の顔を持っています。

一方、能登半島は南西から北東に向かって突き出た形をしています。内浦(七尾湾側)は半島自体が「壁」になり、波が遮られて穏やかです。
では、なぜこんな形の半島があるのか。地殻変動で隆起したからです。2024年1月の能登地震でも、半島北部の地盤が最大4m以上隆起したことが記録されています。長い年月をかけた隆起の積み重ねが、今の能登半島の形を作りました。
この日の旅は、父母と妻、私の4人旅。
父は以前からブラタモリが好きで、石川の地層の本を片手に旅に参加していました。
まず向かったのは、外浦の迫力を真正面から受ける能登金剛でした。
能登金剛 — 波が岩を彫ったギャラリー
能登半島のちょうど中央、志賀町に広がる能登金剛は、能登を代表する景勝地のひとつです。
海に突き出す奇岩、波が削り抜いた洞窟——1.5kmの遊歩道を歩くだけで、これだけ多様な地形が次々と現れます。
波の力で岩がどんな形に変わるのか、歩きながら少しずつわかってきました。

巌門 — 岩を貫いた波の証拠
訪れた日は満潮直前。
波が洞窟に入るたびに「さぱーん!」と反響して、音だけで迫力が伝わってきました。
奥まで遊歩道が伸びているのですが、この日は波が高く、途中で引き返しました。
この場所が巌門(がんもん)——波が岩盤を削り、貫いてできた天然のアーチです。
クリックで拡大表示
「岩の弱い部分」というのは、亀裂のことです。能登の岩は、何千万年もかけて海底に積み重なった砂や泥が固まった堆積岩。地震や地殻変動のたびに岩に力がかかり、そのひずみでひびが入ります。これが節理や断層と呼ばれる亀裂です。
亀裂は岩の「弱点」です。波が繰り返し当たると、硬い部分は残り、亀裂のある柔らかい部分だけが削られていきます。長い年月をかけて、やがて穴があきます。
接吻トンネル — 崖の合間に差し込む夕日
海沿いを北上する途中、接吻トンネルと呼ばれる素掘りのトンネルがあります。
狭い岩の隙間をくぐる形状で、向こう側に海と夕日が抜けて見えました。
中を歩いて抜けることもできるようですが、手彫りの古いトンネルです。
震災リスクを考えて、この日は撮影だけして引き返しました。

ちなみに同じ能登金剛エリアにはヤセの断崖・義経の舟隠しもあります。断崖の名前ほどの高さではないので過度な期待は禁物ですが、外浦のダイナミックな地形を短時間で味わえるルートとして便利です。
能登の顔「白米千枚田」 — あの急傾斜の理由
能登金剛を後にして、さらに北上しました。
日本海を背景に、急斜面に棚田が段々と連なる——能登を代表する絶景、 白米千枚田(しろよねせんまいだ)に着きました。

棚田は「平地が作れない場所で生まれた農業の知恵」です。
能登の外浦は、山が海のすぐそばまで迫っていて、平地がほとんどありません。
この地形を作ったのも、新第三紀以降の隆起と日本海の浸食の組み合わせです。
隆起した地盤が波に削られ、急斜面のまま海岸線になりました——だから平地ができないのです。

ブラタモリでも紹介された「2番目に小さい田んぼ」を探して、急な石段を上りました。
ふくらはぎに効きます。
でも登った甲斐はありました。

| 所在地 | 石川県輪島市白米町 |
| 駐車場 | 道の駅「千枚田ポケットパーク」(無料・大型) |
| 注意 | 急な石段あり。歩きやすい靴で |
| 混雑 | 10〜3月のイルミネーション期間は夕方から渋滞注意 |
「二つの海」の正体 — 鴨ヶ浦
千枚田から車で東へ。
ここでいよいよ、冒頭の疑問に戻ることになります。
鴨ヶ浦の岬の先端に立つと、20メートルで海の表情が劇的に変わります。
なぜでしょう。

答えは岩礁の形にあります。
外海に向かって突き出た岩が天然の防波堤になっていて、日本海の波を受け止めています。
岩礁の内側は「陰」になり、外の荒波がそのまま入ってきません。
だから同じ場所に、荒波と静水が並んで存在するのです。
これはそのまま、能登半島全体の縮図でもあります。
外浦(日本海側)が荒れていて、内浦(七尾湾側)が穏やか——という大きな対比が、鴨ヶ浦の小さな岬の上でそのまま再現されていました。
岩をよく見ると、貝がいた
岩礁を歩いていて、足元に目が止まりました。
岩の表面に、貝殻の形がくっきりと刻まれています。
触れると、岩の一部です。
ただ乗っているのではなく、岩の中に溶け込んでいます。
化石です。
ブラタモリを見ていなければ、きっと素通りしていたと思います。
これが「もと海の底だった岩」の証拠で、数百万年前に生きていた貝が地層の中に取り込まれ、今も岩に残っているのです。

父が隣で、スマホで撮りながら「これすごいな」と何度も呟いていました。
もちろん私も嬉しいのですが、父が嬉しそうにしているのを見ると、倍嬉しくなります。

| 所在地 | 石川県輪島市。国道249号線沿い |
| 駐車場 | 鴨ヶ浦駐車場(無料)/ 普通車10〜20台程度 |
| おすすめ | 干潮時。岩礁を広く歩ける |
| 注意 | 岩場は滑りやすい。歩きやすい靴で |
この日の夕食 — 食事処わじもん
この日の宿は輪島市内。
夕食は本来別の店を予約するつもりだったのですが、時間にゆとりがあったので、ホテルで父が見つけてくれた居酒屋「わじもん」に4人で向かいました。
Googleのクチコミはほぼゼロ。
半信半疑で暖簾をくぐったのですが、結果、全員が「ここは人に教えたい」と口を揃えました。


フグの唐揚げ、能登牛の炙り、タチウオの焼き魚、本日の刺身——すべて地のもので、どれもハズレなし。
訪問時はまだGoogleのクチコミがなかった、穴場的な一軒でした。
| 所在地 | 石川県輪島市内 |
| 駐車場 | 近隣のコインパーキング利用(輪島市内に複数あり) |
| 予約 | 事前予約推奨 |
翌朝、内浦へ — 九十九湾
翌朝、能登を離れる前にもう一つだけ寄り道をしました。
九十九湾(つくもわん)。
外浦の荒波とは打って変わって、鏡のように穏やかな水面が広がっています。
波の音もほとんど聞こえず、海底まで透き通って見えるほどです。
……というのは後から知ったことで、実際には父に引っ張られて行ったのが正直なところです。
スマホで岩の写真を撮りながら、その場で論文まで調べ始めました。
目がきらきらしていました。
少年のようにはしゃぐ父を見ているだけで、こっちまで嬉しくなります。
地質の話ができる旅は、二度楽しいものです。
最終氷期が終わって海面が上昇した際(縄文海進)に形成されたとされています。
湾内は波が穏やかで、遊歩道から海底まで見通せるほど水が澄んでいます。
| 所在地 | 石川県鳳珠郡能登町 |
| 駐車場 | 遊歩道入口近く(無料) |
| 見どころ | 海面すれすれの遊歩道から透明な湾内が覗ける |
能登を離れながら
白米千枚田、鴨ヶ浦、巌門、九十九湾——二日間で、全然違う顔の場所をいくつも回りました。
景色がきれいとか、食事がおいしいとか、もちろんそれはあるのですが、この旅で一番印象に残っているのは、父が鴨ヶ浦の岩の前でスマホを取り出し、「これすごいな」と何度も呟いていた姿です。
普段の観光では素通りするような岩が、少し見方を変えるだけで別のものに見えてくる。
能登には、まだ行けていない場所がたくさんあります。また来ようと思いました。
地質情報の参照: 産総研地質調査総合センター「地質図Navi」、国土地理院地形図 /「〜とされている」と記した箇所は、学術的に確定した情報ではなく通説・推定を含みます。